- Q1.発熱によるふるえなのか、けいれんなのかわかりません。どこで見分ければいいですか?
-
A1:ふるえ(悪寒戦慄)では熱性けいれんと違って、意識消失やチアノーゼはみられず、小刻みに震えるだけで間代性けいれんのような四肢の大きな動きはみられません。また始まりと終わりが不明確で比較的長く続くこともありますが、熱性けいれんでは始まりと終わりが明確で多くは数分でおさまります。
解説:夜間や休日の救急外来の診療では、こどもがけいれんを起こしたと言ってあわてて受診される保護者の方をよくお見かけします。受診の際にその時の様子をよく聞いてみると、実はけいれんではなく発熱にともなうふるえ、つまり悪寒・戦慄であったということを私たち小児科医はよく経験します。それでは、この悪寒・戦慄とけいれんの鑑別をどのようにしたらよいのでしょうか?
多くの感染症ではマクロファージが病原体の発熱素(リポ蛋白など)を認識するとインターフェロン、TNF-α、IL-1βなどのサイトカインを放出し、その結果脳内プロスタグランディンE2が上昇して視床下部の体温調節中枢の設定温度を上昇させます。するとアドレナリン分泌亢進が起こり、筋収縮が起こって体温が上昇します。これが悪寒戦慄です。ちなみに悪寒とは発熱の際に体がゾクゾクすることで、これに筋肉のふるえを伴ったのが悪寒戦慄です。アドレナリンの作用により末梢血管が収縮して皮膚の蒼白や冷感も同時にみられます。この悪寒戦慄は一見けいれんと類似しているため熱性けいれんとよく間違われます。それまでにけいれんをあまり目撃したことのない保護者が、こどもの震えている状態をけいれんと思い込んで慌てて受診する例が多いように思われます。しかしほとんどの場合受診時にはすでにおさまっているため、診察医はおもに問診によってのみ悪寒戦慄と熱性けいれんを鑑別しなければなりませんが、この際には次の4点に留意すればよいと思います。
① 熱性けいれんでは一般的には意識が消失するため、発作中は眼球が偏位したり、たとえ正面を向いていても視線が合いませんが、悪寒戦慄では意識消失を伴わないため視線を合わすことができます。保護者への問診の際に「体が震えている間もお母さん(あるいはお父さん)を見ていましたか?」と尋ねるとよいと思います。 ② 熱性けいれんでは発作中は呼吸抑制がみられるため、その間は全身にチアノーゼがみられますが、発作がおさまればその直後にチアノーゼが消失し、顔色も急速に回復します。一方悪寒戦慄では体温上昇中は末梢循環が悪くなり四肢冷感がみられるものの、呼吸抑制がないためチアノーゼは出現せず、また顔色の急速な変化もありません。 ③ 発作中の四肢の動きからもある程度の鑑別が可能です。熱性けいれんの発作型でよくみられる強直間代性けいれんでは、発作初期は強直相で細かく全身が震えて悪寒戦慄と類似しますが、やがて間代相になると四肢はほぼ同時に周期的に大きく屈曲と伸展を繰り返すようになりやがておさまってゆきます。一方、悪寒戦慄では終始小刻みに震えているだけです。保護者への問診の際には、診察医が間代性けいれんの様子をジェスチャーで見せて保護者に確認をとるのも一つの方法かと思います。 ④ 熱性けいれんでは持続時間が短く、ほとんどの場合5〜10分以内におさまりますが、悪寒戦慄では体温が上昇している間のやや長い時間持続したり繰り返す例が多く、しかも始まりと終わりが不明確です。ただ熱性けいれんのごく一部の例ではけいれん重積を起こして30分以上続くこともありますので、①〜③などのほかの状況も考慮したうえ鑑別する必要があります。
はじめて熱性けいれんの発作を目撃した保護者の多くは、患児の容態が急激に悪化するため慌てて冷静さを失って実際には発作の様子をよく観察しておらず、来院時に発作の状況や持続時間の問診をしても十分な返答の得られないこともよく経験しますが、悪寒戦慄で受診した保護者の場合は患児にチアノーゼがみられず容態もそれほど悪くないため、受診時には比較的冷静なことが多い印象を受けます。このような点を考慮して診察すれば、多くの場合上記の4点を参考にして鑑別できるのではないかと考えます。 - Q2.熱性けいれんのときはまず何をすればいいですか?救急車を呼んだほうがいいのはどんなときでしょうか?
-
A2:熱性けいれんを起こしたこどもを安全な場所に移動して寝かせ、吐物をのどに詰めないように顔を横向きにしてけいれんの止まるのを待ちましょう。この際口の中に箸やタオルを入れてはいけません。もしけいれんが5〜10分たっても止まりそうにないときや繰り返すとき、あるいはけいれんの後も意識消失やチアノーゼが長引く場合は救急車を呼んでください。
解説:
(1)熱性けいれんの際の対処のしかた熱性けいれんは保護者が患児の発熱に気づいたのちに出現することもありますが、それまで元気と思い込んでいたこどもがいきなりけいれん発作を起こすことも少なくないため、あまりけいれん発作を目撃したことのない保護者は慌ててまず何をしていいか分からなくなることが多いようです。一方熱性けいれんの40%前後は反復すると言われていますので、診察のあとで保護者に対して発作時の対処の仕方や心構えを指導しておくことが必要です。その際には次のようなことを伝えたらよいでしょう。
① こどもがけいれんを起こしたら、まず安全な場所に移動して寝かせて、きつい衣服は緩めてください。その際吐物をのどに詰めないように仰向きにさせて顔を横向きにするか、もしくは横向きに寝かせましょう。(ただし横向きでは下側になる手足が観察しにくくなります) ② けいれんの発作中には口の中に箸やタオルなどを無理に入れないでください。(窒息を誘発することにもなりかねないので) ③ ほとんどの場合けいれんは5〜10分以内に止まりますので、しばらくは①、②の状態で経過を見ればよいでしょう。その際に保護者は顔面や手足の様子も観察して、受診の際に医師に伝えてもらうことも重要です。特にけいれんが長時間続いたり、左右差や局在性のある場合は表の複雑型熱性けいれんに該当します。複雑型熱性けいれんは下記の特徴のいずれか一つ以上を有するもので、将来てんかんに移行するリスクがやや高めと言われており、予防的にダイアップ坐剤®を使用します。一方、これらに該当しない単純型熱性けいれんでは予後が良好です。
熱性けいれんの分類- 単純型熱性けいれん(simple febrile convulsion)
- 一つの発熱疾患中に繰り返さない。
- 持続が短い。
- 全般性の強直間代けいれんまたは間代けいれん
- 麻痺など後遺症がない。
- 複雑型熱性けいれん(complex febrile convulsion)
- 24時間以内に繰り返す。
- 15分以上持続する。
- 部分発作の特徴を示す。
- 麻痺などの後遺症が一過性あるいは永続性に出現する。
④ けいれんが長引く場合、手持ちの抗けいれん剤(ダイアップ坐剤®)があれば使用してください。
(2)どんな時に救急車をよぶか?私は時々姫路市休日・夜間急病センターで当直しますが、初めての熱性けいれんをおこした患者さんがよく救急車で来院されるのを経験します。しかしそのほとんどは、救急車が患者さんのもとに到着した時点ではけいれんがおさまって顔色も回復しており、救急隊員による処置が特に必要でない場合が多いようです。そこで私は保護者の方には次の場合に限り救急車を呼ぶように指導しています。
① けいれんが5〜10分以上たっても止まりそうにないとき。 ② 短時間のけいれんであっても、すぐに繰り返すとき。 ③ けいれんが止まった後も、意識がすぐに回復しない、あるいはチアノーゼが消失しないとき。 但しけいれん後に寝入る場合は意識障害との区別が紛らわしいので、そのような場合私は患児を無理にでも座らせたり立たせます。この場合意識が回復していれば、多くの患児は開眼して自らの手足で支えようとします。
- 単純型熱性けいれん(simple febrile convulsion)
- Q3.学童期に多いてんかん
-
A3:てんかんにはいろんな種類がありますが、発病する年齢による特徴があります。
小学生や中学生に多いてんかんには以下のものがあります。
①小児欠神てんかん 4〜10歳、とくに5〜7歳の女児に多い。発作は10秒くらいの意識消失と動作停止だけで毎日数回以上おこることが多いが、発作後はすぐもとの状態にもどるため周囲には気づかれにくい。1〜2分の深呼吸で発作が誘発されるので、診断は容易で、バルプロ酸やエトサクシミドの服薬で発作が消失する。
②ローランドてんかん(BECT) 最も頻度の高いてんかんで、3〜14歳、とくに5〜8歳に多い。睡眠中(とくに早朝)に顔をしかめたりよだれを流す発作を起こすが、ときに手足のけいれんをともなうこともある。15歳ぐらいまでに自然に治るため、軽症例では治療しないこともある。
③覚醒時大発作てんかん 5〜25歳、特に思春期前後に多い。目覚めの後や夕方の気の緩んだ時間帯に、全身のけいれんが起こる。
④パナイトポーロス(Panayiotopoulos)症候群 1〜14歳、とくに3〜6歳に多い。睡眠中におう吐したのち、意識障害、眼球偏位、けいれんを起こすが、発作が長引くこともある(てんかん発作重積という)。
カルバマゼピンが有効で、多くは思春期までにはなおる。⑤若年性ミオクロニーてんかん(JME) 8〜25歳、とくに思春期前後に多い。朝起きてすぐ手足のピクツキ(ミオクロニー発作)を起こす。朝食中に持っている食器を落としたり、洗面中に歯ブラシを落とすことで気づかれることが多い。バルプロ酸で発作は止まるが、止めると再発しやすい。
⑥症候性てんかん 脳奇形、新生児仮死、脳炎や頭部外傷の後遺症などいろんな脳の病気に伴うてんかんで、発作症状は脳の障害部位により異なる。肢体不自由、知的障害、自閉症などの発達障害などをともなうことが多く、一般的には発作が止まりにくい。