子供の発熱 病気のとき
子どもの発熱 〜病気のとき〜
藤原小児科クリニック  藤原克彦
(診断と治療社「チャイルドヘルス」2005年8月号17〜20ページに掲載。
またコピーをクリニックの待合室に置いておりますので、ご自由にお持ち帰りください。)

1.はじめに
幼い子どもの急な発熱は両親や育児を担当する者に大きな不安を与えるため、小児科を受診する動機になります。 わが子が熱を出しているのをみてつい不安におそわれ、夜間・休日であってもあわてて医療機関を受診することになります。 しかしこの場合、まわりの大人に少しの知識と冷静さがあれば、休日や夜間に遠路わざわざあわてて受診しなくてもよいケースの多いことは、小児科救急を担当する者のみんなが日頃感じていることです。しかしその一方でまれなことですが、体温の高さのみに気がとられてほかの重要な症状に気づかれずに、重症な病気の発見が遅れる場合のあるのも事実です。 そこでこの章では、発熱のある子どもをみた際にまわりの大人がどのような点に気をつけたらよいかということについて、分かりやすく説明したいと思います。
2.まずどこからみるのか?
発熱で救急病院を受診する親御さんの多くは、まず「体温が・・℃まで上って心配です」と訴え、体温が高いほど病気が重症で、そのため脳に障害をもたらさないか心配されていることが多いですが、そのようなことはありません。 確かに体温が高いと子ども自身がふるえたり顔面蒼白となって活気がなくなり、まわりの者に重症感を与えます。
しかし数時間たって体温が下がった際には、うそのように活気が出てきて食欲も回復している場合が多く、このような場合病気自体は比較的軽いことが多いのです。 そこで病気の重症度を家庭で判断する際には、発熱以外に普段となにがどのくらい違うのかをみることが大切と思われます。
体温が下がった時でさえも、きげんが悪くないか、笑顔がみられないか、食欲がでていないのか、などに注意を払う必要があります。
おしっこの回数が少ないときは脱水症の目安になりますし、痛みを伴なう場合はどこがどの程度に痛がるのかをみて、受診時に医師に伝えておく必要があります。
3.きげんのいい発熱
  • 軽いせきや鼻水をともなう以外には、ほかに特徴的な症状がない場合
    発熱で受診する患者さんの多くはいわゆる“かぜ”(専門的には“かぜ症候群”といいます)で、発熱のほかにせき、鼻水、鼻づまりをともなう場合が多いのです。 体温が38℃台までなら、たいていは比較的きげんも良く食欲も保たれています。 ただしかぜ症候群のうち急性扁桃(腺)炎やインフルエンザでは体温が急激に39℃以上にあがることも多く、この場合は重症感があります。 これらの病気では、最近は簡易迅速検査により一般開業医でもアデノウイルス性扁桃炎やインフルエンザの診断が簡単にできるようになりました。
  • 熱が下がると同時に発疹がでる場合
    生後6か月〜2歳の乳幼児では3〜4日間38〜39℃台の発熱が続いた後、解熱とほぼ同時に全身にピンク色の発疹が出現することがよくみられ、これが突発性発疹です。 突発性発疹では一般的に食欲もありきげんもそれほど悪くないといわれていますが、実際には普段より多少食欲が低下しぐずると訴える母親もよくみられます。 とくに解熱して発疹が出現するころに機嫌が悪くなるため、発疹がかゆいのでしょうかとよくたずねてこられます。(突発性発疹にかゆみが伴なうのかは私にはわかりません)突発性発疹の原因ウイルスは2種類あって、 HHV6型は生後4か月〜1歳、HHV7型はそれ以降によくかかると言われており、なかには2回突発性発疹にかかる子どももあります。
4.きげんの悪い発熱
  • せきが長びいたり、せき込みがひどい場合
    気管支炎や肺炎を起こしている可能性があり、早く専門医を受診して、必要ならレントゲンをとってもらったほうがよいかも知れません。
  • 発疹がともなう場合
    発疹が発熱のどの時期にでるか、あるいはどのような発疹が出るかにより病気が異なってきます。
    突発性発疹では3〜4日間発熱が続き、熱が下がると同時に発疹がでて、数日後に発疹は完全に消えます。(上記も参照)しかし、麻疹(はしか)では39〜40℃の発熱が3〜4日間続いたのちに発疹が出現しますが、発疹がでた後もさらに3日くらい高熱が続く点が突発性発疹と違います。
    さらに熱が下がった後も発疹は黒ずんでしばらく残ります。
    風疹(三日ばしか)では発熱と発疹がほぼ同時期にみられ、文字通り3日間ぐらいで両方ともみられなくなります。
    発熱は38℃台でそれほど高くなく、あまり重症な感じは受けません。
    川崎病では発熱の2〜5日目に体に赤い発疹が出るばかりでなく、両目が充血する、くちびるが口紅を塗ったように真っ赤になる、舌がいちごの実のように赤いブツブツ状にはれる、手のひらや足のうらが赤くはれる、 BCG接種のあとが赤くはれるなど特徴的な症状もみられます。水痘(水ぼうそう)では全身に水ぶくれや虫さされに似た発疹が急激に増加するのが特徴で、熱のないこともあります。
  • 口やのどを痛がって食べにくそうにする場合
    のどや口の中を痛がって食事をとりにくい場合は、扁桃炎、あるいはヘルパンギーナ・手足口病・ヘルペスなど口内炎のできる病気が疑われます。
    特にヘルパンギーナや手足口病は夏季によくみられます。手足口病ではあまり熱はみられません。
  • 目やにや目の充血がみられる場合
    咽頭結膜熱(プール熱)は夏季に多く発熱と両目の充血がみられます。
    川崎病でも発熱や目の充血がみられますが、上記の特徴的な症状がみられます。発熱を伴わない目の充血では、先に眼科を受診する方がよいかも知れません。
  • 耳を痛がったり、耳をよくさわる場合
    このような症状は中耳炎や外耳道炎が疑われます。中耳炎では耳だれ(耳から黄色いうみが出る)がみられることもあります。
  • 耳の下がはれてきた
    流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)がよく知られていますが、反復性耳下腺炎、首のリンパ節炎、蜂窩織炎などほかによく似た症状の病気もあり治療も違うため、専門医を受診してください。
  • ひきつけ(けいれん)をともなう場合
    乳幼児は発熱時に熱性けいれんを起こしやすく、初めて目の前でみた大人は驚きあわてて救急車を呼ぶこともよくあります。
    しかし、そのほとんどでは救急車が到着した際にけいれんはすでに止まっています。熱性けいれんは1〜5歳の子どもの5〜8%にみられるありふれた病気で、急激な発熱の際にいきなり意識がなくなって視線が一方に定まったまま手足をガクガクふるわせることが多いのです。
    このほとんどは5分以内におさまり、その後眠るかしばらくボーとしていますが、次第に意識がはっきりしてもとの状態にもどります。
    したがってほとんどの場合、けいれんの後しばらくはその場で静かに休ませておくだけでよいのですが、(1)けいれんが10〜15分以上と長びく場合、(2)けいれんをくり返す場合、(3)けいれん後も意識のもどりが悪い場合、(4)けいれん後の顔色が悪い場合、(5)けいれん後も手足の動きが悪い場合などでは、ただちに救急車を呼ぶか医療機関に連絡をとるほうがよいと思います。
    このような例では脳炎や脳症、化膿性髄膜炎など重症な病気も疑われるため、緊急処置と精密検査を要することがあります。
  • 呼びかけに対する反応が悪い場合
    呼んでも返事をせず目が合わなくなっているのは、脳に何らかの異常が起こって意識障害がみられていることを示します。
    けいれんをともなうことが多いのですが、けいれんがなくてもこのような場合は脳炎・脳症・髄膜炎などが疑われるため、ただちに病院を受診すべきです。
  • 日光に当たったり高温の室内にいたりしたあと熱がでた場合
    最近は地球温暖化やヒートアイランド現象の影響で夏季の平均気温が上昇する傾向がみられ、このため夏季の炎天下に子どもを連れ出すと、体温調節の未熟さのため急激な体温上昇を起こして熱中症をおこすことになります。
    熱中症のうち体温が40℃以下で意識障害がなく筋肉痛、おう吐、多量の発汗など比較的軽症であるのが熱疲労(いわゆる日射病)であり、 41℃以上の高体温、脱水症状、意識障害やけいれんをともなう重症型が熱射病です。
    親が買い物やパチンコをしている間に自動車内に残された子どもが熱射病で亡くなる新聞記事を最近よく目にしますが、子どもは大人にくらべ容易に熱中症を起こすことをきもに銘ずるべきです。
  • 発熱以外の症状がみられない場合
    発熱以外に特徴となる症状がみられない例では尿路感染症であることが多く、この場合尿検査をしないと診断がつきません。
    一般的には女児に多いですが、生後6か月まではむしろ男児によくみられます。尿検査をする前に抗生物質を服用すれば、尿検査でも診断がつきにくくなるため、発熱があっても診断がつくまでは安易に抗生物質を飲むべきではありません。
5.生後4か月未満の発熱
生後4か月未満の乳児では発熱をみることは少ないですが、その一方で重い病気がかくれていることもあります。
この場合大きい子どもにくらべて特徴的な症状があらわれにくく、進行も速いため注意を要します。
最初にも述べましたが、特に「機嫌が悪くぐずる、いつもの活気がない、ミルクの飲みが悪い、よく吐く、おしっこの量が少ない」といった症状は危険信号で、すみやかに専門医を受診すべきです。ほかの年齢に比べて敗血症、化膿性髄膜炎、尿路感染症などの重症な感染症が多く、これらの病気では早く治療を開始する必要があります。
また、たとえこのような危険信号がみられない例でも軽い病気とは限りませんので、一度専門医を受診しておいたほうがよいと思います。
6.おわりに
乳幼児の発熱をみた場合どのような病気が考えられるかについて、ありふれた病気を中心に説明しました。
しかし実際に多くの患者さんを診察しますと、必ずしも典型的な症状や経過をとる例ばかりではなく、入院して検査をすすめてゆくうちに当初は予想もしなかった重大な病気がみつかることもあります。
今回は字数の関係でこのようなまれな病気、重大な病気については触れていません。
したがって、以上に述べた知識は参考にしつつも、決して“しろうと判断”をするのではなく、大切な子どもさんのためにも是非専門医を受診していただきたいと思います。
参考・引用文献
  • 開業医の外来小児科学(改訂4版)。豊原清臣ほか(編)、南山堂、2002
  • 小児内科、特集「発熱―診かた・考えかた」、2003、35、9−102
  • 柳原知子:乳児の発熱。小児科診療、2005、68、415−421
  • 小児感染症マニュアル2003−2004。日本小児感染症学会編、東京医学社、2003


うたがわれる病気
きげんのいい発熱

軽いせきや鼻水だけをともなう気管支炎、肺炎
熱が下がると同時に発疹がでた突発性発疹
注意:このような病気でも39〜40℃以上になると、きげんが悪くなります。

きげんの悪い発熱

せきが長引いたり、せき込みがひどい気管支炎、肺炎
発疹をともなう麻疹、風疹、水痘、川崎病
口やのどが痛く食べにくいヘルパンギーナ、手足口病、ヘルペス性口内炎
目やにや目の充血がみられる咽頭結膜熱、川崎病
耳を痛がったり耳をさわる中耳炎、外耳道炎
耳の下がはれてきた流行性耳下腺炎、反復性耳下腺炎、首のリンパ節炎、蜂窩織炎
ひきつけ(けいれん)をともなう熱性けいれん、脳炎・脳症、化膿性髄膜炎
呼びかけに対する反応が悪い脳炎・脳症、化膿性髄膜炎
日光に当たったり高温の室内にいた熱中症(日射病、熱射病)
発熱以外の症状がない尿路感染症

生後4ヵ月未満の発熱

きげんが悪くぐずる、いつもの活気がない、ミルクの飲みが悪いすみやかに専門医へ受診
きげんは悪くなく、ミルクののみも良い38℃以上なら翌朝にでも専門医へ受診